状況判断について
それでは、エラーまたは判断ミス(miss judge)で予期せぬ状況・異常な状況が起こってしまった時にはどうすれば良いのでしょうか?
先ず、異常な状況とは何でしょうか?
状況認識(SITUATIONAL AWARENESS)
突然にグライダーが潰れたとか予期せぬ乱流に巻き込まれた等は異常な状況とすぐに判断できます。しかし徐々に変化する気象条件や自機と他機、対地関係などはすぐには異常と判断しづらい時があります。
先にも記しましたように、私たちパイロットはイメージを先行させて行動するのですから、予定していたイメージと異なる結果になりそうなときは何か異常であると疑うべきです。
疑った上で異常がなければ、それは結果オーライなのですから。
そしてこの状況に対する認識・気付きに重要となるのが、
洞察力、経験なのです。洞察力が乏しければ可能性や前後の繋がりを判断する力が劣ります。また、知識や経験が無ければ状況の変化に気付くのが遅れます。
経験豊富なパイロットはより早い段階で異常の接近に気付きますが、経験の浅いパイロットは異常な状況に陥るまで気付きません。もしかすると気付いた時には既に手遅れということもあり得ます。その為、経験の浅いパイロットは自らに条件的な制限を設け、早い段階での気付きを考え回避行動をとらなければなりません。
さて異常を感じとり、状況変化に気付いたらどうすれば良いのでしょうか?
それが危険に繋がるのか?回避行動が必要なのか?そして本当にその判断で良かったのか?
これには、航空業界で常識となっているDECIDE modelと言われる意志決定方法が現在のところ有効です。
DECIDE model
・Detect:異常の事実を発見する。(五感および知識・経験をフルに活用し、何が起こったのか状況判断をします。)
・Estimate:予測・推定をする。(異常の事態がどのように影響するかを予測・推定し、回避行動の必要性を判断する)
・Choose:回避行動の為の望ましい方法を選択する。(その時点での最良の方法を選び出す。状況によっては着地点や進路方向など目的の変更も必要になる。)
・Identify:選び出された最良の方法のアクションを確認する。(必要と有れば、Uターンなのか、もしくは増減速するなど具体的な行動を確認する)
・Do:行動(アクション)を実行する。
・Evaluate:行動の効果や結果を評価する。(実際に行った回避行動が良い方向へ繋がっているのか、逆に悪い方向へ繋がっているのかを判断する)
上記の意志決定方法を異常時に瞬時に判断し、行うのですが、必ずしも全てのパイロットが常に良い判断(good judgment)を持てるとは限りません。
突然の危機状況に陥ったときは誰しも半ばパニック状態になってしまい、間違った判断(poor judgment)もあり得ます。
間違った判断をそのまま延長すると余計に修正が困難な複雑な危機状況に陥ることがあります。これは一つの負の連鎖であり、状況打開にはこの連鎖を断ち切る必要があります。
その為、最終的なEvaluateの段階で、状況が好転しないと判断したならば、一から考え直し、再度DECIDE modelを実行する方がよりよい方向へと向かうことが出来ます。
ここで若干話は変わりますが、私たちハング・パラパイロットは常日頃から練習、訓練しているのは、一部のコンペティターを除き、如何に高く上がるか、遠くに行くか、長く飛べるか、などの技術面やそれに関わる知識の習得が殆どだと思います。
ところが、旅客機や軽飛行機の場合は、多くの訓練時間が、最悪の条件を想定したトラブルシューティングに充てられています。
どうしてかと考えると、最悪の条件になったとき、いざっと云うときに、過去にシュミレーションの経験無く、前知識が無いので有れば、間違った判断(poor judgment)により正しい行動がとれないからです。
過去にそういった訓練・シュミレーションをしていなければ、コンマ何秒の判断が必要とされているときに、パニック状態の頭で、とっさの判断に任せて行動するしかありません。それが、運良くベストの時も有れば、不運な結果となるときもあります。
ところが、既に訓練・シュミレーション、もしくは前知識のある人は、そのような条件にはまってしまった時にでも、比較的に落ち着いて次の行動を起こすことが出来ます。
次にする手順は既に幾つかのパターンで経験し、知識としてあるので、あとはどれを選択するかの判断だけです。(例:紀ノ川に登録されているパイロットは当初に座学講習を受けさせられて、このエリアの特殊性から、最悪の事態は山方向に戻り、豊かに繁った樹木に突っ込むようにと教えられています。ところが、他のエリアのパイロットにとっては、樹木に突っ込むのは非常に面倒で、悪いことのように考えている人も多くあります。少なくとも、後者には最悪の事態で、選択肢が一つ減ったことになるわけです。)
このDECIDE modelも日頃からの経験者の知識や最悪時の対応シュミレーション等を取り入れることにより、より完璧なものへと発展させることが可能となるのです。
以上のように、天気の悪いときや風待ちの時などに、積極的に複数の人間でシュミレーションする事は非常に有効な安全対策へとつながるので、お勧めします。
さて、これまでにCRMやADMなどについて色々と述べてきましたが、既に誰もが気付いていることとは思いますが、我々パイロットにとって最も必要なことは状況判断能力なのです。それにはあらゆる可能性を常日頃から考え、備える事が必要であり、洞察力、経験を蓄積してそれらを活かし、状況判断をするという姿勢を持ち続けることです。
周囲の雰囲気をも読みとれない鈍感なパイロットには状況の変化に敏感に対応することなど不可能です。テイクオフに上がって電池切れや準備不足を訴えるようなパイロットには先々にイメージを先行させて飛ぶことなど不可能です。
常に謙虚に自分自身を見つめ、全てのリソースを駆使して洞察力、経験の蓄積を行うように努力し続けて下さい。
~次回に続く~